元国立がん研究センター中央病院小児科・科長
牧本 敦
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍は、我が国で年間発生約50例の希少疾患 であり、欧米に比較して治療成績が不良であった。適切な治療によって 長期生存が期待できるため、標準治療と最新エビデンスの理解が必須で ある。
●標準治療の解説と最新のエビデンス
【疾患の概要】
ユーイング肉腫は、小児・若年者で2番目に多い骨原発悪性腫瘍であるが 、軟部組織にも発生する(表1)。臨床像によって区別されていた5つの 疾患、すなわち、骨ユーイング肉腫、骨外性ユーイング肉腫、原始神経 外胚葉性腫瘍(Primitiveneuroectodermal tumor; PNET)、神経上皮腫、 Askin腫瘍は、t(11;22)(q24;q12)など 共通の染色体転座を有することが明らかとなり、「ユーイング肉腫ファ ミリー腫瘍(ESFT)」という疾患概念を形成した。このように発生部位は 多様であるため、手術と放射線治療による局所制御の具体的方法は、発 生部位(骨、軟部組織、臓器)による個別化が必要となる。化学療法の 効果は腫瘍の生物学的特性に依存するという前提のもと、上記5疾患で共 通のエビデンスとして利用可能と考えられる。治療にはこれらを組み合 わせた集学的治療が用いられる。
【化学療法】
ESFTに対して有効性が高い抗がん剤はdoxorubicin(DXR)、 cyclophosphamide(CPA)、vincristine(VCR)、actinomycin-D(ACD) 、ifosfamide(IFM)、etoposide(VP16)の6剤である。プラチナ製剤は 有効性が低いとされている。
キードラッグはDXRである。これは、米国Intergroup Ewing Sarcoma Study(IESS) -IでVCR, ACD, CPA (VAC)+DXR併用群の優越性が示され1)、 続くIESS-IIでは、DXRを増量したVAC+DXRとの比較試験においてDXR増量 の有効性が示されたことによる2)。同時代の欧州における臨床試験結果 も合わせ、VCR, DXR, CPA (VDC) ± ACDの組み合わせが1980年代の標準 治療と見なされるに至った。
その後、欧州の臨床試験においてIFMを併用したレジメンが有望であった こと3)、米国で再発腫瘍に対するIFM+VP16の組み合わせ(IE)の有効性 が示された事から、米国国立がん研究所(NCI)は多施設共同ランダム化 比較試験INT-0091を実施した。限局例398人、遠隔転移例120人のESFTに 対して、標準治療アームにVDC+ACD、試験アームにこのレジメンとIEの交 互投与を採用し、手術、放射線治療を併用した治療を行った 4)。結果、限局例ではVDCA+IE群の5年無病生存率が69%、VDCA単独群が 54%とVDCA+IE群で有意に成績が良かった。
以上より、限局性ESFTに対する標準治療はVDCA+IEであると見なせる。一 方、遠隔転移例の5年無病生存率は治療にかかわらず約20%に留まってい るため、現時点ではVDC+/-ACDを基本に実地診療を行うしかない。
【局所制御:手術療法+放射線療法】
頭頚部原発腫瘍や骨盤原発の巨大腫瘍などを除いて、可能な限り原発巣 に対する外科的切除を行い、切除度に応じて最適な放射線治療を行うの が標準的な局所制御方針であるといえる。化学療法が最適化された現在 では、完全摘出または広範切除以上のマージンで切除を施行された症例 に対しては、放射線治療を行わない4)。放射線治療の線量は50-60Gyが根 治量と考えられている。 外科手術の有効性を示唆する報告は多いが、予後良好とされている腫瘍 (腫瘍サイズが小さく、限局性で、四肢遠位に位置するもの)は外科治 療を良い条件で行い得るために良好な治療成績が得られた、という可能 性が否定できない。外科治療と放射線治療とのランダム化比較試験は行 われていないため、標準的な局所療法を根拠に基づいて規定することは 不可能である。
- 日本の現状 従来、欧米から発表された論文を参考に、各施設が独自に、必ずしも最 適とはいえない医療実践を行ってきたのが実状である。このような状況 のため、日本整形外科学会骨腫瘍登録委員会による1986年から1996年の 185例の登録データでは限局性腫瘍の5年粗生存率ですら47.5%5)と不良 であった。ESFTの治療成績の向上のためには、有効かつ安全な化学療法 レジメンを開発すると同時に、手術や放射線治療を含む集学的治 療を最適化して効率的に行うために多分野の専門家による連携を強める 事が必要であると考えられる。このような現状に鑑み、2003年に小児科 医と整形外科医を中心として、日本ユーイング肉腫研究グループ(JESS) が結成され、VDC-IEの5剤併用療法を基軸とした限局性ESFTに対する標準 治療の第II相試験が開始された。
- 今後の方向性 治療成績の向上のために二つの方向性が考えられる。化学療法の dose-intensity/densityの強化、および、新規薬剤の導入である。前者 は、米国においてG-CSF使用による治療間隔の短縮によるdose-density強 化の臨床試験が行われており、我が国では大量化学療法を併用した治療 の臨床試験が計画されている。これらの結果が良好であればその方向性 を取り入れる。後者の新規薬剤としては、単剤での医師主導治験が実施 されている塩酸イリノテカンや、IFMとの併用療法の臨床試験が計画され ている塩酸ノギテカンが有望視されるため、これらの臨床試験の結果を 待って、標準治療との比較を行っていく事になるであろう。
- 参考文献 1. Nesbit ME, et al: J Clin Oncol 9:1664-1674,1990 2. Burgert EO Jr, et al : J Clin Oncol 8 :1514-1524,1990 3. Paulassen M, et al : J Clin Oncol 19 :1818-1829,2001 4. Grier H, et al : N Engl J Med 348 :694- 701,2003 5. 日本整 形外科学会骨軟部腫瘍委員会:全国骨腫瘍登録一覧表,2002
■ 表1 国立がんセンターにおける94名のESFT患者の原発部位 (1978-2006)
- 骨原発 49 (%) 骨外性 45 (%)
- 頭蓋骨 3 (3.2) 頭頚部 4 (4.2)
- 体幹 13 (13.8) 体幹 8 (8.5)
- 骨盤 14 (14.9) 胸腔内 5 (5.3)
- 上肢 8 (8.5) 腹腔内 17 (18.0)
- 下肢 11 (11.7) 上肢 3 (3.2) 下肢 8 (8.5)
Yonemori K, et al: J Cancer Res Clin Oncol 2007 (In press)より